Innovation Nipponでは、さまざまな分野でICTを活用したイノベーションを推進する方々を取材し、イノベーションの現場からの声をお伝えしています。
各事例は、内容もさることながら、地域にとってICTが持つより一般的な可能性を見てとることもできます。ICTを活用して多様な人や組織をつなぐことで域内の資源を有効に活用し、さらには域外からの受注につなげ、ひいては地域の暮らしや経済を向上させるという活動は、ここでご紹介する地域や業界を超えて様々な地域で、様々な業界を起点に、実現できるものでしょう。今回ご紹介した事例が、ICTの持つ可能性を活かした地域づくりのさらなる創発への一助となることを願っています。
北海道 公立はこだて未来大学
IT漁業による地方創生
~漁業者や地元中小企業とともに「仕事に溶け込む」ものを作る~
公立はこだて未来大学
システム情報科学部教授
和田 雅昭氏
「IT漁業による地方創生」は、漁業者が海の状態を常に把握し、変化があれば即時に対応していくために、養殖業にとって最も重要なデータである水温を計測し漁業者にリアルタイムで提供することから始まりました。現在は、水温だけではなく海流などさまざまな海洋環境の可視化や、ナマコの分布状況など水産資源量の可視化にも対象を広げています。そして、勘と経験による競争的な漁業に、情報と資源の共有による協調的な漁業を加えることで、持続可能性を高めることに貢献しています。近年は、海洋観測ブイのデータ形式や仕様をすべてオープンにするなど、地元IT企業と連携し、各地のIT漁業で活用できるようにすることで、地方創生につなげることも目指しています。
※地域情報化大賞2015 大賞/総務大臣賞 受賞事例
島根県 隠岐國学習センター
小規模校集合体バーチャルクラス
~離島を「教育の島」にする遠隔授業システム~
隠岐國学習センター
ICT教育ディレクター
大辻 雄介氏
「小規模校集合体バーチャルクラス」を実施している隠岐國学習センターは、日本海に浮かぶ隠岐諸島のひとつ、中ノ島の海士町にある公営の学習塾です。隠岐諸島の中学生はそれぞれの島の中学校に通うため、特に天候が荒れる冬季などは、放課後に中ノ島の塾まで船で通うことが難しくなります。そこでこの学習センターではインターネットで授業を配信し、生徒は各自の家からタブレット端末やパソコンで双方向の授業に参加することができるという遠隔授業システムを開発し、活用し、さまざまな成果を上げています。
※地域情報化大賞2015 アドバイザー賞 受賞事例
BACK NUMBERS
岐阜県東白川村
フォレスタイル
- 村役場のプラットフォームがお客様の家造りと建築業・林業を結ぶ -
岐阜県加茂郡東白川村
総務課課長補佐
桂川 憲生氏
高級材の東濃ひのきで知られる岐阜県東白川村は、フォレスタイルというウェブサイトを村が構築し、地元の基幹産業である住宅の設計や建設に関する事業者と、顧客をつなげています。信用力のある村が運営するサイト内で家造りの構想段階からアフターサポートまで一貫して支える仕組みです。オンラインで間取りや材料を指定すると建築費用が概算できるシミュレーション機能なども備えています。
村の総務課課長補佐の桂川憲生氏は、このウェブサイトを通じて、遠方からの顧客の獲得にも成功しているほか、地元の方が新しいことに挑戦しようと考えるようになってきたと述べています。
※地域情報化大賞2014 大賞/総務大臣賞 受賞事例
京都府京都市
「ポケットカルテ」&「すこやか安心カード」
- 医療データをつなぐ地域のヒューマンネットワーク -
独立行政法人 国立病院機構 京都医療センター
医療情報部長
日本サスティナブル・コミュニティ・センター
顧問
北岡 有喜氏
京都市を拠点に活動するNPO法人日本サスティナブル・コミュニティ・センターの「ポケットカルテ」と地域共通診察券「すこやか安心カード」は、地域づくりへの効果という点から見ても特筆に値するものです。お話をうかがった北岡有喜氏は同センターの顧問で、国立病院機構京都医療センターの医師でもあります。この仕組みでは、患者さんを中心に地域の医療機関の連携ができる体制を実現しています。
患者さんは、自分の診療結果などを閲覧・管理したり、その情報を地域の様々な医療機関に提供したりすることができます。患者さんの診療履歴などをビッグデータ解析することで医療サービスを高度化できる可能性もあり、また、それを通じた医療費削減の可能性もある、と北岡氏は指摘しています。
※地域情報化大賞2014 大賞/総務大臣賞 受賞事例
熊本県熊本市
シタテル
- 国内工場へのクラウドソーシングにより高品質な縫製を提供 -
シタテル株式会社
代表取締役
河野 秀和氏
熊本を拠点とするシタテル社は、地元熊本をはじめ、様々な地域の縫製工場の遊休キャパシティを域外の需要とつなげる、というプラットフォームを運営する会社です。代表取締役の河野秀和氏は、高品質なサービスを提供できる工場が、必ずしもマーケティングや営業を得意としていないことを指摘しています。また、販売店など発注者側もどのような工場にどのような発注ができるかを必ずしもよく把握していない状況があるそうです。そうしたギャップを埋める形で両者をつなぐのがシタテルのプラットフォームです。
山脇 智志さん
キャスタリア株式会社
キャスタリア株式会社は、モバイル教育プラットフォームの提供や、アフリカにおけるその展開、日本で初めてプログラミングを必須とした広域通信制高校「コードアカデミー高等学校」設立への参画など、ICTを前提とした教育の新しいあり方を示すような形で、フロンティアを切り拓いている。より広い人々に、より多様な環境に教育の機会を創り出している活動の背景には、教育で社会課題を解決するというミッションがあり、独自の教育観があり、テクノロジーが持つ可能性についての洞察がある。代表取締役の山脇智志さんに話を伺った。
高萩 昭範さん
株式会社Moff
Moffが手がける最初の製品であるMoff Bandは、コンピューターデバイスだが、手首に巻き、姿勢や動作で操作するものである。クラウドファンディングで非常に大きな支持を得たことでも知られている。このように身に着けるコンピュータ、身振りで操作するデバイスであるウエアラブル・デバイスの世界は今後の多様な展開が期待される領域のひとつだ。
ITが今後人間とどうかかわって行くのか、先の見えない領域でどのように事業を展開していくのか、ものづくりにあたって留意している点は何か、そしてイノベーションを後押しする政府の役割は何か、など代表取締役の高萩昭範さんにお話を伺った。
閑歳 孝子さん
株式会社Zaim
株式会社Zaimは、250万を超えるダウンロード数を誇る非常に高い人気の家計簿アプリZaimを提供している。このサービスには、大小さまざまな工夫がこらされているが、人気の背景にはユーザーの声を聞いて取り入れていくことへの積極さがある。
代表取締役の閑歳孝子さんに、メディア業界などを経て時間外でのアプリ開発を初め、起業し、この領域に全力を注ぐようになった理由や、サービスを通じて実現したいこと、ユーザーの声との向き合い方、女性のイノベーターへのメッセージなどを伺った。
岩佐 琢磨さん
株式会社Cerevo
株式会社Cerevoは「ネットと家電で生活をもっと便利に・豊かにする」をスローガンに、ネット接続型の家電製品の開発・販売を行う。家電のデジタル化により、わずか数名のエンジニアだけで家電製品を作り上げることが可能になっている。そんな時代において、既製のパーツを組み合わせ、ソフトウェアのみを独自設計することで「世界でここにしかないもの」をCerevoは生み出している。Webでのライブ配信を簡便に行える機器や、カメラをスマートフォンで操作する機器など、他にはないCerevoのプロダクトは全世界約20カ国で販売されている。
「グローバルニッチ」を標榜し、社員十数名でネット家電製品の開発・販売を行うCerevoの取り組みは、まさしくイノベーションであろう。代表取締役の岩佐琢磨さんに話しを伺った。
岩館 空さん
株式会社ときめきサプリ
自らの実体験の中から、なかなか積極的に恋愛に踏み出せない多くの女性に対し、2次元から3次元の恋愛にステップアップするための橋渡しとなる、『2.5次元』のサービス、「イケメン店員マップ」を札幌で開発。「ときめき」がもつパワーで人々の心にうるおいをもたらすだけでなく、お店にとっても店名告知による集客力のUPや、さらにはお店の余裕がある時にマーケティングメールを発信することができる戦略性も兼ね備えている。さらにコミュニティ創出、地域経済活性化などの副次効果も期待できる。まさに、日本でこそ生まれ得たユーザー目線に徹したサービスとして、イノベーションと呼ぶにふさわしい。
代表の岩館空さんにお時間を頂き、サービス開発の経緯等イノベーションの源泉について話を伺った。
地方創生に資する『地域情報化大賞』
総務省が主催する地域情報化大賞にInnovation Nipponはご協力しています。
地域情報化大賞2015
日本は現在、人口減少、少子高齢化、医師不足、災害対応、地域経済衰退などの様々な課題を抱えています。これらの課題を解決する際に役立つICTの利活用を普及・促進することを目的として、総務省は地方創生に資する先進的な地域情報化事例を広く募集し、表彰を行いました。
各事例の概要はこちらからご確認いただけます。
表彰事例一覧
■大賞/総務大臣賞※がついているものは、表彰事例の直接のウェブサイトではなく、関連する記事やページを掲載しています。